大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(行コ)82号 判決 1981年9月08日

東京都文京区小日向一丁目一一番一〇号

控訴人

宇土芳郎

右訴訟代理人弁護士

新寿夫

東京都文京区春日一丁目四番五号

被控訴人

小石川税務署長

右指定代理人

梅村裕司

新村雄治

三好毅

小沢邦重

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。控訴人の昭和五〇年分所得税につき、被控訴人が昭和五二年二月二八日付でした更正及び重加算税賦課決定を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する(但し、原判決四枚表一行目「一記載のとおり」の次に「清算差益金合計三一、七八八、〇〇〇円から、清算差損金合計七、四四五、八〇〇円を控除後の」を加え、同裏末尾より三行目「そのうち」とあるのを「別表一の清算差益金合計三一、七八八、〇〇〇円のうち」と訂正する。)。

理由

一  当裁判所も被控訴人のした本件更正及び重加算税賦課決定はいずれも適法であり、その取消を求める控訴人の本件請求はすべて失当であると判断する。

その理由は、次に付加、訂正するもののほか、すべて原判決理由記載の認定判断と同一であるから、これを引用する。

1  成立に争いのない甲第五号証も、未だ右認定判断を左右するに至らない。

2  原判決一一枚裏六行目「べきである旨主張するが、」の次に「本件商品取引においては、商品の受渡はおこなわれず、専ら反対売買の成立時に差損益として清算する取引方法がとられていたことは、控訴人の明らかに争わないところであり、また」を加える。

3  同八行目「そして」以下一二枚表六行目までを次のとおり改める。

「所得税法は雑所得の所得金額につき、一歴年を単位とする期間計算の方法を採り、当該年分の総収入金額から必要経費を控除した金額とすると定める(同法三五条二項)とともに、右の総収入金額及び必要経費の計上時期に関して、総収入金額に算入すべき金額は、その年中において「収入すべき金額」とするとして、いわゆる権利確定主義の建前を表明し(同法三六条一項)、必要経費に算入すべき金額についても、その年に支出すべき債務として未確定のものを除くとして、右の権利確定主義に対応する債務確定主義の原則を採用している(同法三七条一項括弧書)。従って、当該年分の雑所得金額の計算上、未だ債権債務として確定するに至らないものを、その年分の総収入金額又は必要経費として算入することは、右の原則に反し、許されないことは自明である。

ところで、本件商品取引のように、専ら反対売買成立の際に手仕舞(清算)をおこなうものにあっては、右の反対売買の成立時に差損益金として、債権債務の金額が具体的に確定するというべきであるから、右の時点を以て雑所得の総収入金額又は必要経費の計上時期とするのが相当である。してみると、本件建玉については、本件係争年内に反対売買による手仕舞(清算)未了であることは控訴人の自認するところであるので、控訴人の主張する金額を差損金として、本件係争年分の必要経費に算入する余地はないといわなければならない。この点に関し、控訴人は本件建玉の本件係争年末における価額が客観的に明らかである旨主張するけれども、しかし、右の如きは時々刻々変動する商品相場のいわば単なる一時点における経過的・浮動的な相場値を示しているものに過ぎず、これを以て反対売買の成立による確定値と同視することは到底できない。控訴人の本件建玉に関する上記主張は全く独自の見解であって、採用に値いしない。」

二  してみると、控訴人の本件更正等の取消請求を棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がない。

三  よって本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 沖野威 裁判官 内田恒久 裁判官 藤田照生)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例